「せとなか百貨店」は、三原市の地域産業が生み出した数々のスグレモノが集まっています。その種類はバラエティに富んでおり、自分へのご褒美や手土産に最適なグルメの数々、事業者の職人が丹精込めて作る機能性を重視した寝具や衣類品、家具、美容品、生き物までさまざまな商品を展開しております。

せとなか百貨店では、三原市ならではの商品の魅力や、作り手の想いを発信していきます。ぜひ瀬戸内の楽しさ、面白さ、美味しさに出会ってください。

第2回目にご紹介するのは、八天堂の『くりーむパン』。

しっとりした生地とやさしい味わいが魅力の、八天堂の『くりーむパン』。
つい食べ過ぎてしまう方も多いのではないでしょうか。

2008年に誕生したロングセラー商品で、店舗やオンラインショップで購入することができます。
八天堂の看板商品であるこの『くりーむパン』は、同社の存続危機を救った商品でもあるのです。

数々の苦難を乗り越え、2023年に創業90周年を迎えた八天堂。
三原市のみならず全国へ、そして世界へと事業を拡大し、三原を代表する企業へと発展しました。

『くりーむパン』の誕生秘話、八天堂の取り組みや今後目指す姿について、広報ブランディング室広報担当の伊藤さん、EC事業部販促企画課の中山さんのお二人にお話を伺いました

八天堂の歩み

和菓子店から和洋菓子店、そしてパン屋へ

1933年、甘いものが希少、かつアメリカ大恐慌の影響で人々の暮らしが厳しい時代に、「甘くておいしい和菓子で周りの人たちを元気づけたい」との想いから、創業者森光香氏が三原市港町に和菓子店『森光八天堂』を創業しました。

『八天堂』の名は、香氏の出身・世羅町のお堂が由来となっています。
そのお堂は地域の人たちに愛されていたため、「自身の和菓子店も地元の人から親しまれ、愛されるお店にしたい」との想いで、地元の人たちに『八天堂』の名前を使ってよいかを訊ねたところ、快く賛成してもらえたとのことです。

その後、二代目・森光義文氏が洋菓子を取り入れ、『ラ・セーヌ八天堂』を展開。

三代目の森光孝雅氏は神戸のドイツパンの名店「フロインドリーブ」で修行し、1991年三原市宮浦に『たかちゃんのぱん屋』を開店。
1997年、孝雅氏は八天堂の三代目社長に就任しました。

パンの種類は100種を超え、広島県で10数店舗を構えるまでに成長します。

『くりーむパン』の誕生

ところが、急激に事業を広げた結果、経営不振に陥ってしまいます。
天然酵母を使用したパンを発売し業績は回復したものの、他社に追従されるように。

そこで、何か新しいパンをつくり、新たな市場を生み出そうと試みます。
思案して出た策は、100種類以上あるパンを「選択」と「集中」で一点に絞り込むことでした。

孝雅氏は商品を絞り込む際、日本人に馴染みの深い食感の「くちどけ」に注目しました。
「くちどけ」をパンで表現できないかと考えた時に、ふんわりした食感のカスタードクリームを使ったクリームパンが向いていることから、開発が始まりました。

「通常のクリームパンは生地を焼く前にクリームを入れるのですが、そうするとクリームが硬くなってしまい、くちどけとはほど遠い食感になってしまうんですね。またくちどけにこだわり、『カスタードクリーム』に『生クリーム』を多めに配合しているので、オーブンで焼くとクリームが溶け出してしまいました。それで、焼いた後にクリームを注入すればいいのではないかと考えました。

通常のパン生地の場合、中に空洞はありませんから、クリームを入れるとクリームがあふれてしまいます。そこで注目したのがショートケーキでした。ショートケーキは冷蔵庫に入れても生地スポンジが硬くなりません。

一般的にクリームパンは生地に強力粉を使用していますが、薄力粉を使うことによって、スポンジのようなやわらかい生地ができたのです。そこから改良を重ね、『くりーむぱん』が誕生しました（八天堂広報ブランディング室：伊藤さん）


開発当初、クリームの注入にはシュークリーム製造用の機械を使用したのだそうです。八天堂が、以前洋菓子店だったからこそ成し得た業だったといえます。

商品を一点集中する方針に対し、今まで100種類以上のパンをつくってきた職人さんやスタッフの反発は大きかったといいます。
社内のみならず、パンを卸していたスーパーにも「申し訳ないけれど、商品を引き上げさせてほしい」と頭を下げました。

周囲の反対を押し切り、試行錯誤を繰り返し誕生した『くりーむパン』。
開発には1年半費やしましたが、この『くりーむパン』がヒットし、業績はＶ字回復へ。
口コミで商品はどんどん広がっていき、広島県のみならず、全国のお客様に愛される商品となりました。

パン生地にクリームを注入する様子（現在の製造の様子）

「食のイノベーションを通した人づくりの会社」へ

八天堂が経営の危機を逃れたのは、もうひとつ大きな要因がありました。

経営が傾いたときに、会社を救う手を差し伸べたのは、孝雅氏の弟でした。
弟から、自分が貯めた2,000万円で会社を立て直してほしいと電話があったのです。

孝雅氏は弟に感謝をするとともに、弟を育てた両親への感謝があふれ、人に支えられて生きてきたことに気づきました。
その出来事により孝雅氏は、人を育て大切にする企業を目指していきます。

「当社は人づくりを基本とした会社です。会社のメンバーから『あなたに仕事を任せて良かった』『あなたと一緒に働けたから頑張れた』といった言葉をもらえた時にやりがいを感じます」
（八天堂EC事業部販促企画課：中山さん）

「当社は『食のイノベーションを通した人づくりの会社』です。
食のイノベーションを手段として、目的である人づくりに向かい、お客様、地域、そして未来から必要とされるお品・人・会社として成長して参ります」
（八天堂広報ブランディング室：伊藤さん）

社会のために食品会社の枠を超えた取り組みを

八天堂は食品製造のみならず、地元三原の地域事業や福祉事業などにも力を入れています。
グループ会社『八天堂ファーム』では、「八天堂ぶどう園」を社会福祉法人と連携し運営することで、生活困窮者の方の就労を支援。

千葉県木更津市の工場では、障がい者の方の就労継続支援B型としても機能しています。
広島空港前の『八天堂ビレッジ』は2016年に建設。

八天堂ビレッジは広島空港前を基点とした「体験型の食のテーマパーク」です。
八天堂本店はこの八天堂ビレッジの中にあり、こちらの店舗でしか買えない限定商品もあるとのことですので、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。

八天堂ビレッジはご家族で楽しめる"体験型”の食のテーマパーク”です

三原から全国へ、全国から世界へ

最後に伊藤さんと中山さんに、八天堂の今後の展望について伺いました。

「広島三原から東京へ、東京から全国へ、日本から世界へどんどん八天堂の企業や商品の魅力を発信していきたいと思っています。オンラインショップをうまく盛り上げて、皆さまへ魅力をお伝えできたら。
それとともに、三原も一緒に盛り上げていけたらよいなと思っています。実際三原にも足を運んでくださる人が増えたらいいなと思います」
（八天堂EC事業部販促企画課：中山さん）

「"八天堂は次に何をしてくれるのだろう”と期待していただける、我々にしか成し得ない、どこにも無い『八天堂らしさ』をコンセプトに、唯一無二の八天堂ならではのお品づくりに挑戦します」
（八天堂広報ブランディング室：伊藤さん）

2023年に創業90周年を迎え、2033年の創業100周年に向けてすでに歩み始めている八天堂。
今後さらなるイノベーションを起こし、世界へと飛躍していくに違いありません。