「せとなか百貨店」は、三原市の地域産業が生み出した数々のスグレモノが集まっています。その種類はバラエティに富んでおり、自分へのご褒美や手土産に最適なグルメの数々、事業者の職人が丹精込めて作る機能性を重視した寝具や衣類品、家具、美容品、生き物までさまざまな商品を展開しております。

せとなか百貨店では、三原市ならではの商品の魅力や、作り手の想いを発信していきます。ぜひ瀬戸内の楽しさ、面白さ、美味しさに出会ってください。

第4回目にご紹介するのは、羽倉ブロイラーファームの『無添加スモークチキン』。

羽倉ブロイラーファームは”星降る町”久井高原にあり、養鶏およびスモークチキンの製造を手がけています。
オーナーの梶谷剛さんは獣医師免許を所持。その知識を活かし、養鶏場は徹底的な衛生管理を行っており、抗生物質を一切与えていない鶏肉はおいしく良質と評判です。

剛さんが丹念に育てた鶏の肉を父、母、妻が連携し、ひとつひとつ心を込めてスモークチキンにしています。
このスモークチキンは全国にリピーターを抱える人気商品。
剛さんに養鶏に対する想いや『無添加スモークチキン』についてお話を伺いました。

徹底した品質管理

原料となる鶏の飼育は、獣医師である剛さんが徹底的な管理を行っています。
剛さんは”安全でおいしい鶏肉を提供したい”との思いから、鶏に抗菌剤などの薬は一切使用していません。

「まずは鶏を病気にさせないことです。他の鶏に感染する恐れもありますし、病気を治すために投薬をすると出荷が遅れる上、大きく育ちにくいんです。鶏の腸内環境を整え、肉質を良くするためにハーブ成分を混ぜています。
さらに、消毒や水洗、換気を通して徹底的な衛生管理を行い、清潔な鶏舎を維持するように努めています」

その徹底した管理は同業者から絶賛され、海外の農場からも飼育管理の指導のオファーがあるほど。
梶谷さんの育てた鶏肉は高く評価され、全国の日本最大手スーパーで取り扱われています。

「薬を入れない餌でもしっかり鶏を育て出荷できるのが、うちの強み。個人で経営している農場でも大手企業さんと取引していただけるんです」

確固たる信頼と実績により今では大手スーパーとも取引があり、スモークチキンは全国にリピーターを抱えるようになった羽倉ブロイラーファームですが、事業がここまで軌道に乗るまでには大変な苦労がありました。

広々として温度管理も徹底されている鶏舎

羽倉ブロイラーファームの歴史

米農家から養鶏場への転換

現オーナー梶谷剛さんの祖父が養鶏を始めたのは、高度経済成長期の1970年頃でした。
日本が食文化の変化により洋食を食べる機会が増え、食肉が足りなくなってきた時代です。
祖父は米作りや木の伐採を行っていましたが、時流に乗り養鶏業に転業。

剛さんの父は農業高校を卒業後、乳製品を扱う会社へ就職しました。
父は剛さんが生まれた頃に会社を辞め、祖父から養鶏を事業継承しました。

家の手伝いが嫌でたまらなかった子ども時代

生まれた時から家業が養鶏という環境で育ってきた剛さんですが、小さな頃は家の手伝いがとても嫌だったそうです。

「鶏糞を袋に詰めたり、鶏を出荷する時に鶏を捕まえる手伝いをやっていました。
今はそういった作業は全部機械化されているのでそれほど大変ではないのですが、当時はそれを全部手作業でやっていたんです。

祖父、祖母、父、母の他に従業員も数人雇っていました。
朝早くから夜遅くまで休みなく毎日働いているのは、子どもから見ても大変だと思いました。
手伝いは頼まれたからやっていましたが、しんどかったイメージしかありませんでした」

剛さんは高校卒業後、県外の大学へ進学し、獣医学を専攻。
家業を継ぐのは気が進みませんでしたが、小さな頃から生物や農業に興味があったのです。

大学卒業後は、動物用の医薬品企業で開発の仕事に就きました。
就職して3年ほど経った頃、父から農場を大きくしたいという話がありました。
父から家を継いで欲しいとは一度も言われたことはなかったものの、会社員生活に終止符を打ち、剛さんは実家に戻る決意をします。

羽倉ブロイラーファームの外観

事業を継承し、インターネット販売に注力

剛さんが事業継承後最も力を入れたことは、インターネットで加工品を売るようになったことでした。

「僕が家に帰ってきた時はすでに母がスモークチキンを作って売っていました。
母がご近所さんに向けてクリスマスの時期に販売していたものが”おいしい”と評判になり、口コミで徐々に売れていったんです」

剛さんはスモークチキンをもっとたくさんの人に知ってもらいたいと考えます。

「商工会で知り合った方に『田舎の人相手だけでは知れている。インターネットに出品すれば日本中の人が買ってくれるから絶対ネットに出したほうがいいよ』と言われ、インターネットに出店することにしました。
人に教えてもらいながらお店を出し、全国から注文が入るようになりました」

「インターネットで購入してくださった方からの反応を聞けるのはとてもうれしく、やりがいになります。インターネット出店をやってよかったと思います」

”とんがりのある商品”を模索して

ネットショップでスモークチキンは順調に売れるようになっていきましたが、剛さんはさらに売上を伸ばしたいと考えていました。

「商工会のコンサルタントの方に相談したところ、他との差別化のため『何か商品に特徴”とんがり”をつけましょう』とアドバイスをされました。しかし、新しい商品を作るのは難しく、思いつきませんでした。

それまではスモークチキンに発色剤を使用していたのですが、”添加物を入れないで作ってほしい”というお客様が数人いたため、数回に一度、添加物を入れないで作っていました。

それをコンサルタントの人に話したところ、『それをメインで売ったほうがいいです、無添加にこだわっている消費者は世の中に一定数いるから、その人たちに向けた商品でいきましょう』とアドバイスをいただきました。

ずっとそれだけでやってきた結果、”15年近く無添加のスモークチキンだけで売っているお店”と認知してもらえるようになりました。
無添加に変えるきっかけをいただいて、そのコンサルタントの方には本当に感謝しています」

母から受け継ぎ、次世代へと繋いでいく味

羽倉ブロイラーファームは剛さんが事業継承してから大きく発展しましたが、今後の展望はどのようにお考えなのでしょうか。

「私自身は、一度も父から『（家業を）継いでほしい』とは言われませんでした。息子がいますが、大変な仕事なので農場を息子に継いでほしいとは思っていないんですよね。息子には自分の好きな道を歩んでもらいたいと思っています。

スモークチキンの製造は娘がやってくれたらいいなと思うこともありますが、娘はまだ小さいのであと10年くらいは母に頑張ってもらいたいですね。母からは早く引き継いでほしいと言われるのですが、僕が忙しくまだ作り方を引き継げていないんです」

チキンを漬け込むピックル液は、剛さんの母が基本に忠実に40年間守り続けているものです。

「うちのスモークチキンは両親が20年前から地道に作ってきました。それを5年後も10年後もただ真面目に実直に作り続けていきます」

家族で一丸となり守り続けてきた農場とスモークチキン。今後も次世代へと大切に受け継がれていくことを応援しています！